戦闘終了後
戦闘終了後。とうとう堪え切れず陽介が叫んだ。
「お前ら少しは自重しろ!」
毎回毎回見させられるこっちの身になってみろよ、とブツブツいう陽介。月森に馬乗りになっていたりせが口を膨らます。
「なによ、回復させてあげてるだけだもん」
言いながら月森の首筋にかすかについた傷の部分に舌を這わす。月森の口からかすれた声が漏れた。確かにりせの癒しの波動に回復効果はあるが……
「だもん、じゃねーよ! おかしーだろそれ! だったら全員にしろよ!」
陽介が言い返す。りせが、
「全員ってそれ……」
言いかけたところ、千枝が口をはさんできた。
「全員にもしろってそれ、自分がしてほしいだけじゃないの?」
「先輩、そこまでして……」
畳みかけるような完二の発言。りせに加えて千枝と完二までが蔑む目で陽介を見る。
「だーーーー!! そんなんじゃねぇ!! 大体お前らはあれを見てなんとも思わないのか!?」
二人に向かって陽介は叫んだ。
が、返答はあっさりしていた。
「もう慣れた」
「俺も別に……」
見慣れるとあれはあれで見てて面白いとか、恥ずかしいこと堂々とやってる先輩たち見てたらうじうじ悩んでた自分がバカらしくなったっス、などと二人で言い合っている。自分の賛同者が得られないことにいたく不満な顔をしている陽介を見てりせが月森に訊く。
「花村先輩、彼女いないからひがんでるのかな?」
「陽介はテレビの中の人が好きだからな」
「え、そうなの?」
何か考え込んだりせは、一人納得すると陽介の方に近づいて行って声をかける。
「花村先輩、なんか可哀想だから、今度私の非売品の写真集あげる」
「え、マジで!?」
陽介の顔がパッと明るくなる。が、すぐに訝しげな顔になって訊いた。タダでいきなりくれるには理由があるはずだ。
「くれんのは嬉しいけど、でもなんで?」
返答は予想外なものだった。
「先輩アイドルオタクなんでしょ? 特別に使っていいよ」
アイドルオタクって現実の女性じゃなかなか満足できないんでしょ、それじゃあ彼女がいないのもしょうがないよね、とか何とか言って慰めてくれる。アイドルオタク?
「なんじゃそりゃあ!」
「違うの?」
「違うわ!」
「アニオタ?」
「アホか!!」
「え、でも孝介先輩が」
月森の方を見る。陽介もそちらに視線を飛ばす。自分で自分の目が座ってるのがわかる。
「お前、なんて言ったんだよ」
「陽介はテレビの中の人が好きだって」
なのにこっちの怒りはどこ吹く風で、立ちながらしれっと答える月森。陽介は怒り心頭で、
「誤解を招く言い方はやめろ! ちゃんと現実に相手いるわ!!」
「現実じゃないだろ。シャドウじゃないか」
月森が冷静に訂正する。その発言にりせが反応した。
「え、花村先輩の相手ってシャドウなの!?……シャドウ?……え、それって……獣姦?」
その発言につい噴き出す月森。
「くく、確かにスレイヴアニマルとかだったらまんまだよな」
「先輩すげっスね。俺にはとてもマネできねー……」
完二が感心している。こんなことで感心されてもちっとも嬉しくない。横にいる千枝は口を手で押さえて下を向いている。どう見ても笑いをこらえているようだ。りせの方はというと、何を想像したのか物凄い蔑みと憐みの目でこっちを見ていた。陽介は憮然として、
「りせ、お前絶対変なこと想像しただろ」
「アブルリーとかに舐められて感じてんでしょ。花村先輩、キモ……」
「よりによってなんでそれなんだよ!」
つい自分で想像して鳥肌が立った。
「ええー、じゃあキリングハンドとか?」
「いくつもの手で全身まさぐられるのが好きなんですーってか。違うわ! ちゃんと人型してるっつーの!!」
「……ギガス?」
その発言を聞いて今度は千枝もこらえきれず噴き出す。
「あははっ、それいい~。完二君のことどうこう言えないって、花村」
「だから違うって!……はあ、もういいや……」
叫ぶ元気もなくなってきて、声に覇気がなくなる。そんな陽介にお構いなくりせが、また思いつくまま口にする。
「キュクロプスとか……」
「あ、あれいいよな」
月森が口出ししてきた。うっとりとした顔で言う。
「あの格好で雪子に火あぶりの刑にされたい」
「孝・介・先・輩?」
「あ、いや、りせにされたいです、はい」
そして余計な発言をしてりせに睨まれる。
もうこの後は、あれが使えるだの使えないだの、月森の持ってるペルソナだったらあれがいいだとかこれが駄目だとか、言いたい放題で会話が弾んだ。一人陽介を除いて。
(なにこれ、俺の方が変なの? 変なのか?)
楽しそうに人をネタに会話している皆を後目に、陽介は深々とため息をついた。
あれ、このメンバーだと回復役がいない気がする。ま、いいや。主人公一人で多分何とかなるって。それこそりせのHP回復もあるし。