巽屋

「こんにちはー。完二君いますか?」
 りせは巽屋の入り口の戸をガラッと開けた。返事がない。見まわしたが見える範囲には誰の姿もないようだ。
(おばさん、出かけてるのかな?)
 靴を見ると完二のはある。ということは少なくとも完二は家にいるようである。りせは靴を脱いでそのまま2階に上がると、
「完二いるんでしょ?この前頼んでたあみぐるみの……」
 言いながら完二の部屋の扉を開けた。座ってオナニー真っ最中の完二と目が合った。そのまま硬直する完二。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……続き、しないの?」
「できるかあっ!!」
 我に返った完二が、あわててズボンをずり上げブツをしまい込む。
「お、お前、ひ、人の部屋に勝手に入ってくるなよなっ……」
 部屋を見まわすが、なにか物品があるわけではない。エロ本などを使っていたわけではないようである。りせはいたずらっぽく聞いてみた。
「ねー、何考えてオナニーしてたの?ひょっとして私、なんて」
「あるわけねえだろ」
 即答である。だろうと思ってはいたがやはりいい気はしない。いささかむっとしながら、
「まさか孝介先輩じゃないよね?」
「な、あ、あるわけねえだろっ」
 私の時は冷静なくせに、先輩の名でなぜ動揺する。嫌がるとわかっていてつい余計な発言をしてしまう。
「え、ひょっとして花村先輩、とか?」
「ぶっ殺すぞてめー」
 氷点下の返答が返ってきた。
「あはは、ごめんごめん、直斗だよね」
 瞬時にして真っ赤になる。本当にわかりやすい。完二は口ごもりながら、
「ちげーよ……」
「ふーん……直斗ってさー、可愛いよね」
「そ、そうか?」
「この前、家に直斗がきたんだけど、直斗って着やせするんだよねー」
 しゃべりながら完二の横に座る。
「スカートを持ってないっていうから私のを着せてみたんだけど、胸とかボリュームがすごくてさ」
「ノーブラで腕組んだら、腕に胸が乗ってるんだよ」
 ちらっと横目で顔を覗き見る。想像しているのだろう、顔が赤い。なるべくこっちに見られないよう姿勢をずらそうとしているところが面白い。
「スカートの丈も短いから、恥ずかしがっちゃって、裾引っ張っておろそうとしたりして」
「それでいて、立ったり座ったりするときさ、直斗普段がズボンだから、スカートを押さえるのというのに慣れてなくて」
 思い出し笑いをしてるかのようにくすっと笑うと、
「結構無防備なんだよねー、スカートの中ばっちり見えちゃって」
「後で自分の格好に気が付いて真っ赤になって慌てて抑えたりするの」
 また横を見る。いつ鼻血を出してもおかしくない顔になっている。目線を下にずらすと、しっかり膨らんでいた。
(うわぁ)
 そういえばオナニーの途中だったはずである。好奇心に駆られりせはそのまま手を伸ばし、ズボンのファスナーを下げた。
「ばか、やめっ……」
 完二が慌てて制止するのも聞かず、そのまま中のを取り出す。カチカチである。
 軽く舌なめずりをすると、りせは一物に手をかけた。とその瞬間、一瞬膨らんだかと思うと亀頭の先から白濁液が飛び出した。タイミングの予想外さによける間もなく、りせの顔に思いっきりドロッとした白いものがかかる。顔に手をやり指で付いたものを拭う。己の指についた白濁したものを視認した途端、りせが叫んだ。
「もう、サイッテー!信じらんない!!」
「だ、だからやめろって」
 前髪にまでついているのを確認して、怒りに肩を震わせる。
「この私がしてあげようとしたのに!」
「そ、それがそもそも余計なことなんだよ!」
 反論してきた。完二のくせに。
「誰もお前なんかに頼んでねーだろが。大体お前じゃ勃つもんも勃たねーんだよ!」
「思いっきり顔にはかけてくれたけどね!」
「そ、それはお前がっ……」
「あ、直斗」
「え!?」
 りせが扉の方を向いて言うと、完二が驚いてそちらを向いた。
「こんなとこに直斗がいるわけないじゃん。バッカじゃないの。ふんっ!!」
 直斗の名にここまで素直に反応するのがますます腹立たしい。りせはそのまま力任せに扉を閉めると、勝手知ったる他人の我が家で洗面所で顔を洗うのは忘れずにしたあと、完二の家を飛び出した。
 家に帰っても怒りが収まらず枕を投げ飛ばして当たり散らし、そもそもの用件を聞き忘れたことに気が付いたのは、もう日が暮れた後であった。

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