フードコートにて
お馴染みのフードコート。今回集まったのは月森と陽介とりせの3人であった。飲み物を用意し、3人が着席したところで月森が口を切った。
「ところで、りせと陽介がやる日っていつにする?」
今まさに口に含んだジュースを盛大に噴き出す陽介。りせの方は噴き出しまではしなかったものの、固まって動けなかった。頭が痛い。
(まさか、あの発言本気だったなんて……)
「なななな、なんの話ですか。全っ然状況が見えてないんだけど?」
テーブルを拭きながら陽介が言う。
「あれ、陽介に言ってなかったっけ?」
「いきなり連れてこられただけでなんも聞いてねぇよ!」
「ほらあ、花村先輩も困ってるし。この話はなしで……ってちょっと先輩、人の話聞いてないでしょ」
かくかくしかじかで、と陽介に説明する月森。陽介の顔が赤くなる。
「つまり、お前の前で、俺と、その、り、りせがやるってこと?」
「ぜひ見せつけるようにやってくれ」
月森が真面目な顔で言っている。陽介の顔がますます赤くなった。ちらりと伺うようにこちらを見る。が、あきらかに苦虫を噛み潰したような顔をしているであろう自分の顔を見ると、今度はさっと青ざめた。
「こ、こういうのは相手の女の同意も必要なんじゃねえの……?」
「そうですよ先輩。私の意見も聞いてください!」
ここぞとばかりに力説する。月森がちょっとバツが悪そうに、
「ごめん、俺一人で突っ走ってたかな?」
素直に謝ってくれるところは、可愛くていいんだけど。
「じゃあ、りせは誰ならいいんだ?」
「……」
誰かとやるのは前提の様である。この月森の行動力だと、下手に拒むとまた誰を連れてくるかわからなさそうである。
(どうしよう)
1.しょうがないので陽介で手を打つ
2.陽介とするくらいなら完二の方がマシ
3.男とはイヤ女がいい
とりあえず1を選んだ。
「わかりました。花村先輩でいいです。ただし!」
りせは力を込めて言う。ここは大事なところである。
「私のいうことには逆らわないこと。絶対服従が条件。ここは譲れないですからね!」
「わかった。それでいい――」
快諾しようとした月森の発言に、
「ちょ、ちょっと待て!俺の方がよくねーよ」
かぶせるようにして陽介が口をはさんできた。
「いやいや、絶対服従ってこえーだろ。俺は絶対嫌だからな」
陽介としたいなどとはこれっぽっちも思っていなかったが、いざ向こうから断られるとそれはそれでムカつく。りせは口を尖らせた。
「ちょっと花村先輩、私の何に不満なの?」
「お前のやりそうなことにだよ。この前見たけど、あんな月森にしてるようなことされたらたまんねーよ」
「この前見た……?え、私が先輩にしてたこと……?」
しまった、という顔を浮かべる陽介。途端に視線が宙を彷徨いこちらを見ようとしない。りせの眉が釣り上がる。
「……ひょっとして、覗いてたの?」
「いや、その」
きっぱり否定しないのが肯定の証であろう。
「他人のHを覗き見するなんて、花村先輩、サイッテー」
思いっきり侮蔑を込めて言った。
というわけで2。
目の前の陽介とはとてもじゃないがする気になれないので、つい、
「花村先輩とするくらいなら、完二とする方がまだマシかも」
小声で呟いた。すかさず、
「わかった、完二ならいいんだな」
喜々として月森が反応する。なんて耳ざとい。いや、これは言葉の綾で、などと口にする暇もなく、
「今なら家にいるかもしれないしちょっと行って訊いてくるよ」
「ええ!?ちょっと先輩?」
止める間もなく席を立って行ってしまった。残される二人。
「うそ、ホントに行っちゃったよ……もうっ!花村先輩のせいだからね!」
「俺のせいかよ!大体、完二の名前を出したのはりせの方だろ」
りせの逆ギレに陽介が反論する。りせはテーブルに突っ伏した。
「あーもう、ホントに完二がきちゃったりしたらどうしよう。やりたくないよー」
後悔先に立たず。なんであんなこと言ってしまったんだろう。うだうだ考えていると、肘をついて顎に手をやると陽介がぼそっと聞いてきた。
「……お前、ほんとんとこ、誰とならいいの?」
テーブルに伏せったまま答える。
「そんなの孝介先輩に決まってるでしょ」
「だよなー、普通」
「私がするんじゃなくて、孝介先輩が私の許可した女の人とする、っていうんだったらいいんだけどなぁ」
「……は?」
「それでイキたくなったときは、イカせてくださいって私に頼んでくるの。やってる女じゃなくて私に、というのがみそよね……そのときの先輩の目が涙で潤んでたりしたら……えへへ」
自らの発言内容を想像して一人で興奮し始めているりせを見て、陽介はため息をついた。
「……お前の発想も大概だから月森のこと、どうこう言えないと思うわ……」
結局完二は捕まらなかったようで、帰ってきた月森はしょんぼりとうなだれている。問題は先送りされただけでなんら解決はしていなかったが、りせは一安心すると、よしよしと月森の頭を撫でた。
3だったら。
「女とか……俺としては、男としてるりせが感じてる姿を見るのがいいんだけどな」
「……素朴な疑問なんですけど、それのどこに興奮するポイントがあんの?」
陽介が疑問を投げかける。月森は、顎に手を当てて軽く思案したのち返答した。
「己の無力感?」
「なんだよそれ」
「苛まれる感じがいいんだけど、まあ陽介もやってみればわかるよ」
「やりたくないし、絶対理解もできないと思う……」
話が脱線している。このまま逸れてくれればと思ったがそうは問屋が卸さなかった。月森はこっちを振り向くと、
「じゃあ、りせ。女だったら相手は誰がいいんだ?」
ここで拒絶してももう仕方がないので、できそうな相手の名を上げる。
「んー直斗?」
「直斗だったら、女らしくないし丁度いいんじゃねーの」
陽介がからかい気味に言った。りせはちょっとむっとして、
「実際の直斗をみたらそんなこと言ってられないんだから。実は胸だってすごく大きいし、感じてる時の声だってすごい色っぽいんだから……って、あ」
やば、つい余計なことまで……二人を見ると目を丸くしている。
「りせ、直斗としたことあるの?」
「あるというか、なんというか、あはは」
笑ってごまかせないかと思ったがやっぱり無理で、二人の圧力に負けりせは白状した。
「直斗があんまり自分に自信がないもんだから、直斗は十分に魅力的だよ、と教えるつもりで……つい、いろいろと」
可愛かったしね、えへへ、とほんのり頬を染めて恥ずかしそうに告白する。
「直斗、そんなにすごいのか……」
なにを想像しているのか、陽介は鼻の下を伸ばしている。
「花村先輩、直斗を汚さないでよ」
「な、ちょっと想像しただけだろうが」
「先輩の妄想は直斗を汚すんですー」
「んなわけあるか」
言い合っているうちに時間が過ぎ、その日はそのままお流れになった。
二人の直斗に絡む言い合いを傍目に月森が考えていたこと。
(ここは俺、直斗に嫉妬すべきところなんだろうか?)
するべきかどうかで結構真面目に悩んでいたのを、りせは知らない。
りせって直斗のこと「直斗くん」って呼んでましたよねー、確か。でも話進めたらやっぱり直斗になってた。よかった、間違ってなかった(苦笑)