異様な商店街にて
異様な商店街の酒屋にそっと中を伺いながら足を踏み入れる。
「花ちゃん、また来てくれたんだ」
声の方向に振り向くと、小西先輩の姿が見えた。
「先輩」
ほっとしてそちらの方に足を向けると、先輩の方も近づいてきた。目の前に立つと、両腕を伸ばし陽介の首の後ろに回し、先輩の唇が陽介の唇に触れる。と、すぐ離れた。陽介の顔を覗き込んでいたずらっぽく笑う。
「軽いキスだけじゃ不満?」
「そんなわけじゃ」
言い終わらないうちに口を塞がれた。今度はさっきと違う濃厚な口づけ。舌と舌が絡み合い、互いの唾液が混ざり合う。静かな部屋の中、暫くくちゅくちゅという音だけが響きわたった後、やっと先輩の唇が離れた。唾液の白い糸つつっと互いの舌を伝う。先輩は、陽介を見て満足そうな笑顔を浮かべると首の後ろに回していた手をほどいた。
早紀は離した手をそのまま陽介のシャツのボタンに手を伸ばし、一つ一つボタンを外していく。陽介は何かを期待しているのかされるがままである。一番下まで外し、中のTシャツをたくし上げると、陽介の肌があらわになった。薄暗い店内、陽介の肌が浮かび上がる。
指でそっと肌に触れると、陽介の体がピクリと震えた。掌で体を撫でさすっていく。腹を、脇腹を、背中を。胸元まで来たとき、手に突起物が触れた。軽くつまむと、
「んっ……」
陽介の口から声が漏れた。いつみても耐える表情を見るのは楽しい。が、そういう顔を見ていると嗜虐心が頭をもたげてもくる。早紀は親指と人差し指でころころ転がすと、おもむろにぎゅっと強くつまんだ。
「ああっ」
顔を歪めて体をくねらせる陽介。早紀は、
「花ちゃんのその顔、すごくそそる」
言いながらも手は止めない。存分に軽く強くを繰り返しながら指でもてあそんだ後、やっと手を止めた。荒い息を吐いている陽介に、
「いろんな花ちゃんを見たいから、今日は」
陽介の臀部の方へ手を滑らすと、蕾のところで指先を止めた。
「ここで楽しもうよ」
陽介の顔がこわばった。
「本気じゃないですよね?」
「花ちゃんは嫌?」
「と、当然すよ」
拒絶の意思を示す陽介に、早紀は軽くため息をつくと、
「しょうがないか」
おもむろに陽介の両手首をつかむと、手錠をかけそのまま手前に引っ張った。バランスを崩して前につんのめる陽介を酒樽の上に倒れさせ、手錠を壁についていたフックに引っ掛けて外れないようにする。
「せ、先輩……?」
横から自分を見上げる陽介の表情から、怯えの感情が見て取れた。自然顔が緩む。軽く舌なめずりをすると、
「花ちゃんが素直にいいって言ってくれたらこんなことしなくてすんだんだけど」
そう言って足枷もして、足も動けないように閉じれないようにした。
「ふふ、じゃ、はじめようか」
ベルトを外し、下着もろともズボンを下す。あらわになった臀部の奥のすぼまりの部分に指をあてた。陽介の体が緊張でこわばる。早紀は揉みほぐすように指で入口を撫でたり、軽く押したりしはじめた。徐々に、ほぐされたのか柔らかくなってくる。
「……ぅ……あ……」
陽介の体がもぞもぞとくねった。早紀はそのしぐさを見てくすっと笑うと、
「あ、そうだ。このまま入れたら痛いよね」
いったんあてていた指を放し陽介の頭の方へ行き、人差し指と中指を口の前に差し出した。
「舐めてくれる?」
意味が理解できないでいる陽介に、言葉を続ける。
「この指乾いているから、このまま入れたら痛いと思うんだ、花ちゃんが」
いったん言葉を止めた後、また続ける。
「だから舐めて濡らしてくれる?」
陽介がためらっていると、
「裂けちゃって血で滑りをよくするのでもいいけど」
どうする?といった感じで、顔の前で指を振ると、あきらめの表情を浮かべた陽介が口を開け舌を伸ばしてきた。指を少し近づけると、舌先でちろちろ舐めとってくる。もっと指を近づけると口に含んできたので、咥内を蹂躙する気分で指を動かす。
「んんんっ」
声にならない声を上げつつ、陽介は舐める行為を続ける。その賢明な姿に、早紀は自らの下半身の疼きを自覚しつつ陽介の奉仕を続けさせた。
「花ちゃんいい子ね、もう大丈夫よ」
十分堪能した後、陽介の口から指を引き出すと、早紀は陽介の唾液がべっとりとまとわりついた指を本人の尻の蕾にあてがった。
「力抜いてね」
言いながら、中指をゆっくりと差し入れていく。第2関節ぐらい入ったところで指を曲げると、
「ひあっ」
陽介の体が跳ねた。
「ひょっとしてココ気持ちいい?」
指の腹でこすると、陽介の体がぴくぴく動く。前を見ると勃っている。
「なあんだ、花ちゃん、実はお尻を弄られて悦ぶ変態さんなんだ」
「ち、違う……ああっ……」
陽介の返答など意に介さず、早紀は笑みを浮かべると行為を続けた。
「せ、先輩、も、やめ……て……」
体をわななかせ、息も絶え絶えにいう陽介に対し、早紀は入れた指を動かしたまま前を覗き込む。
「ここはそんなこといってないように見えるけど?」
大きくなった肉棒の先からは先走り汁が出ている。先ほどからずっと出ているので、陽介の体を支えてる酒樽の方にシミまでできている。
「そんなに止めてほしい?」
中からじわじわと突き上げてくる快楽という名の刺激に声を出すのもままならないのか、陽介は首を縦に振るだけである。
「何をしてほしいのか、ちゃんと口に出してお願いしてくれないと解らないなぁ」
「……抜、いてほし……」
「何を?」
「指、を」
「どうして?」
「そ、それは……」
「それは?」
「……」
早紀は指は入れたまま覆いかぶさるように、陽介の耳の方に顔を近づけると何事かを囁いた。ただでさえ全身上気して赤くなっている陽介の顔が羞恥でさらに朱に染まる。
「そんな、の、い、いえな……」
「でも言なかったらこれ、止めないよ?」
指を少し強めにくりくりと穿るように動かすと、陽介の口から苦痛とも快楽ともつかない声が発せられた。こみ上げる感覚に抵抗するように何回か大きく息を吐いた後、意を決したように言葉を発する。
「……じ、自分は、し、尻の穴の、中を指でい、弄りまわされて……」
いったん言葉が止まる。指の動きは止めないままじっと黙っていると、また言葉を紡ぎだした。
「……悦ぶ、へ、変態です……」
また止まる。言葉を忘れたのかと思い、早紀は陽介の耳元に口を近づけると、ふっと息を吹きかけた。
「ひぁっ」
「言葉、忘れちゃった?」
唇をかみしめながら首を振り、目をつむる。
「じゃあ続き頑張って」
「……き、気持ち良、すぎて、気が……狂いそ、うなので、だ、だから、やめて……くだ、さい」
最後の方の声は消え入りそうであった。早紀は満足げにうなずくと、
「はい、よくできました」
指を引き抜いた。体の緊張がとれ陽介がほっとしたのもつかの間、また異物の侵入を感じ目を見開いた。
「ふふ、約束通り指は止めてあげたけど。でも、お尻弄られると悦ぶんでしょう。私、花ちゃんにはうんと悦んでほしいから、ね?」
そう言うと、手に持っていたスイッチを入れた。
「な、ひっ、く、ああっ」
いきなりの刺激に思わず嬌声が漏れる。臀部から突き出ているのはバイブ。そのバイブが蠢いている。基本物音ひとつしない異様なほど静かな店の中、蠢くバイブの音と陽介の喘ぎ声が響きわたった。
陽介の四肢が痙攣する。また絶頂を迎えたようである。今後ろを責めているのは己の指ではないので、早紀は段ボールに座って陽介を眺めている。
「……ホ、ント、も、おかしく、なる……」
「なればいいのに」
目に涙を浮かべて首をふるふると横に振る。閉じきれていない口元からは涎がつつっと流れでていた。
「泣いてる花ちゃん、すっごくかわいい」
早紀は、顔を近づけると垂れてる舌で舐めとりそのまま軽く陽介に口づけた。
「もっと泣いていいのよ」
唇をかみしめ漏れ出る声を堪えようとする陽介。唇を親指でそっとなぞりながら、
「我慢するから堪えきれなくなるのよ?もっと快楽に身を任せたら楽になるのに」
「い……い、や……だ……くううっ」
陽介の体がまたこわばり始めた。絶頂が近いようである。
「またイクの?じゃ今日はこれで終わりにしてあげる」
スイッチを強にする。陽介は膝をがくがくさせ、エビぞりになったかと思うと樽に倒れ込んだ。
手錠を外すと、陽介は自分で立つ元気もないようでそのまま樽の横の床に崩れ落ちた。仰向けにさせると、脇にしゃがみ込み早紀はまだ固くなっているモノを手に取った。先走り汁でべとべとである。
「前だとそう何回もイケないけど、後ろだといくらでもイケるのがいいよね」
掌で感触を味わうように揉みながら、輪っかにした指でカリの部分を引っ掛けたり、亀頭を指先で弄ってみる。肩で息をしていた陽介の口から、またかすかに喘ぎ声が漏れはじめた。
「さっきは花ちゃんが愉しんだでしょう。だから、今度は私を愉しませてね」
立ち上がると自分で下着をずらし、亀頭の先をあてると腰を下ろす。もうすでに十分に愛液で濡れそぼっていたそこは、抵抗もなくずるりと根元まで咥え込んだ。
「うあっ……!」
「いいっ……」
自分の快楽に忠実に腰を振っていると、
「も、で、出る……っ」
早い。後ろでは散々イってても、射精自身は一度もしていないので暴発寸前だったのかもしれないが。あわてて引き抜いて根元をつかむと、寸止めされた陽介がつらそうな声を上げた。涙目でこちらを見上げているが無視して、根元を髪ゴムで縛る。
「今は私が愉しむ番だから、まだ出しちゃダメ」
そういうと、また挿入して続きをする。イキたくてもイケないもどかしさで、陽介の方は苦しそうな声を上げる。それを見ていると、こちらの興奮がさらに増すのを感じた。腰の動きをぐっと激しくすると、陽介が苦悶の表情を浮かべた。
「くぁ、きっ、つ……」
「あ、イキそう……んんっっ!!」
上半身をのけぞらせて、早紀は絶頂を迎えた。
行為が終わり、乱れた衣服も整えた後。
「……体中が痛い」
自分の手首を撫でさすりながらいささか不機嫌な陽介を、早紀は抱きしめるとそっと頬に口を寄せた。
「泣いてる花ちゃん、かわいかった」
「それ、うれしくないっす……」
横を向いたまま憮然とした顔で答える陽介を見て、早紀は顔をほころばせた。すっと、陽介から離れる。
「花ちゃん、こんな私でも好き?」
「え?」
「よかったらまた来てね。ここ、一人だとさみしいから―――」
言うだけ言うと驚いている陽介の返事を待たず、扉の外へ押し出した。
「せ、先輩?」
扉が閉まる。
「またね」
聞こえたかどうかはわからないが、そう言うと店内に踵を返す。途中で振り向くと、中に戻ろうか逡巡していた様子だったが、結局は入らず背を向けるとそのまま歩き去る陽介の姿が見えた。だんだん小さくなり、やがて見えなくなる。
自分も、自分の体が、小西早紀の体が崩れていくのがわかる。
自分は、ここにたゆたう影。
小西早紀の形を作れるのも、彼がそれを望むから。彼が望む間だけ形をとれる。
(また来るのかな。来そうな気もするな。花ちゃん、優しすぎるから……)
来たら今度は何をしようかなぁ。肉体が霧散し、意識だけの存在になりながらぼんやりとそんなことを考えた。
小西先輩と陽介です。いろいろと突っ込みどころが満載ですが、楽しく書けました。先輩がイった後は、ちゃんと出させてもらってると思います。