文化祭後の天城屋旅館2
「もうここまでくりゃ大丈夫、か?」
陽介は後ろを振り返った。走ってここまで来たが、息切れがしてきたので歩きに変える。しかし、不安がとれずつい後ろを振り返ってしまう。このながら歩行は当然のことながら前方不注意を招き、結果、角の所で前からきた人と出会い頭でぶつかってしまった。
「きゃっ」
「うわ、すんませ……って、なんだ里中か」
「私と分かった途端のその態度は何?」
すごい顔で睨んでくる。まあ確かにこれが天城とかだったら「悪い」ぐらいの言葉はすっと出たかもしれないが。が、落ち度が自分にあるのは事実なので、ここは素直に謝罪した方がよさそうである。
「里中さん、ぶつかってすみませんでした……」
「うむ」
千枝は謝罪の言葉を聞いてとりあえずは満足したようで、
「で、どうしたの?」
後ろを気にしているようだけど?と訊いてきた。事実気になっているので、
「柏木と大谷、追ってきてねーよな、とか」
「ああ、そういえば二人して一緒に泊まってるんだっけ。でもなんで? 追いかけられてるの?」
「いや、みんなでお前らの部屋に夜這いしに行こうとしたんだけど、どこを間違えたのか柏木たちの部屋にいっちまって」
この時前を向いて答えていれば、千枝の表情が変わったのに気付いたであろう。しかし実際は、後ろを見ながら返事をしたので気がつかなかった。
「えーとごめん。よく聞こえなかったから、もう一度言ってくれない?」
「だからみんなでお前らの部屋に夜這いに……って、ぐは!!」
いきなり陽介のみぞおちに千枝の蹴りが入った。痛みのあまり思わず前かがみになろうとする所を、胸ぐらをつかまれてひっぱりあげられる。眼前に鬼の形相の千枝の顔があった。
「またアンタか! 性懲りもなく!!」
「ち、違うって! 今回は……!」
陽介の抗弁など耳に入っていないようで、
「ちょーっとお灸をすえてあげたほうがよさそうね」
顔は笑ってるが、明らかに怒っている。陽介は文字通り引きずられた状態で千枝たちの部屋に連れていかれた。
「もう勘弁してください……」
陽介は情けない声を出した。
「まーだまだ、この程度、私たちが受けた屈辱に比べたらね」
「そうそう」
女4人に取り囲まれた陽介は、女子4人の協議の結果、陽介にまた文化祭の時の女装の格好をさせられることになった。しかもそれだけではつまらないと、良くグラビアにあるようなポーズまで取らされることに。
まずはりせのお手本があり、そのポーズをとらされる。女装するだけでも恥ずかしいのに、その格好でするポーズをクラスメイトや後輩にずっと見られるなんて。ダメ出し、嘲笑、好奇の目。薄暗い部屋の中で繰り広げられる倒錯行為に陽介は眩暈がしそうだった。
「花村先輩、ここはこう、ね」
半ばやけくそでポーズをとっているのだが、りせの指導が頻繁に入る。この指導というのが曲者で、実際に陽介の手足を手に取っての行為となる。まさに手取り足取りである。
なんといってもあのりせちーである。あのりせちーが自分の体を触ってる。どこまで他意があるのかはわからないが、りせのほっそりとした指が手や足に触れてくるのがなんとも……
「あん」
りせの手が内太ももに触れたとき、思わず声が出た。りせの手が止まった。
(なんつー声出してんだ、俺)
恥ずかしさのあまり耳まで真っ赤になる。そっと周りを窺いみるが、先程までとは明らかに空気が違う。やばい、自分の不用意な一言が場の雰囲気を一変させてしまった。
止まっていたりせの手が動き始めた。つつーと指が内太ももをなぞっていく。陽介は身を強張らせた。
「ねー先輩、もっと今みたいな声出して?」
いくらりせちーからの甘いおねだりでもきけないものはきけない。
「い、言われたからって出せるわけねーだろ」
「ふーん、そう」
りせが言う。引き下がったようには見えなかった。
とりあえず、今までの行為に他意がなかったことはよく分かった。今は違う。取らされる格好もより扇情的ポーズとなり、りせの触り方も明らかにこっちの反応を楽しむやり方に変わった。りせの行動は声を出させようという魂胆が見え見えで、前を見やれば、残りの女どもはこの状況をニヤニヤ見ているだけである。どいつもこいつも……
こうなると意地でも声を出すまいという気になる。首筋をなぞられ、不意打ちで耳を甘噛みされた時も陽介は声は出さなかった。
りせに「もー、花村先輩強情なんだから」と言わしめたときには、内心勝ったとほくそ笑んだ。が、残念ながら続きがあった。
「先輩、全然声出してくれないからシチュ変えちゃお」
そう言うと、りせは膝立ちになっている陽介の背後に回ると前へ手を伸ばす。リボンを手に取ると陽介の口元に近づけた。
「これ、しっかりと咥えてね」
(そうきたか……)
これは試合に勝って勝負に負けたというんだろうか。陽介はしぶしぶリボンを口に咥えた。
「離しちゃだめだよ?」
言いながらブラウスの裾を引っ張り出し、2番目以降のボタンを外していく。どうでもいいが背後から手を回してやるのやめてほしい。背中に胸が……昼見た水着姿が思い浮かぶ。あれが当たって……
「両手でスカートの裾を持って、ぎりぎりまで持ち上げてね」
この辺だよ、と右腕を伸ばして太ももに指でラインを引く。更にぐっと押し付けられる。思ったよりボリュームありそう。天城よりもでかいか……?
「足は、もうちょっと広げて」
りせの指が、内太ももに触れる。陽介はびくっとした。どうもココを触られるのは苦手だ。下を向くと、含み笑いをするりせと目が合う。くそ。余っていた左手が背後からブラウスの中に潜り込んできた。直に手が肌を伝う感触は先程の比ではない。思わず身をよじらそうとすると、
「動いちゃダメ」
ことのほかきつい口調で言われ、固まった。りせは何事もなかったかのように太ももや胸元をまさぐり始めた。相変わらず背中は密着させてきている。頬が紅潮してくる。陽介は思い切りリボンを噛んだ。
「ねー先輩。前見てよ」
言われて前に視線を飛ばせば、皆固唾を呑んでこちらを見ている。興奮しているのだというのは一目見て分かった。あいつらあんな顔するんだ……
そういえば今の自分の状況って、女装花村りせに襲われるの図、ってやつ? ひょっとして興奮させているのってこっちか? どっちがどっちだか分からなくなってきたが、太ももあたりをもぞもぞさせて興奮してるやつらを見ていたら自分もさらに変な気に……
「先輩、ここ大きくなってる」
りせが指で膨らんだところをなぞった。陽介の顔が羞恥に染まる。この状況に感じているのだというのを確認させられるのは恥ずかしい。
「スカートの上からもわかっちゃうね。くす、女の子にあるまじき格好……」
「っんん……!」
スカートの上から亀頭の部分を人差し指でつま弾かれ、陽介はスカートの裾をぎゅっと握りしめた。
「先輩、このままだと苦しいでしょ。楽になりたい?」
りせが訊いてくる。楽になりたい、の言葉の意味を深く考えずつい頷くと、りせはいきなりスカートの中に手を入れ陽介の下着を下ろした。しっかり固くなってた一物が跳ねあがる。皆の視線がそこに集中するのが分かる。かぁっと頭に血が上った。くらくらする。
「出したら楽になれるから、ね?」
りせは固くなっているモノを指で絡めとるとその手を動かしはじめた。
その時。
いきなり隣の部屋につながる襖が開いた。場が一瞬にして凍りつく。
「お姉ちゃんたち、まだ寝ないの……?」
目をこすりながら菜々子が言った。いち早く動いたのは雪子で、菜々子に駆け寄ると、
「お、お姉ちゃんたちももうすぐ寝るからね。お布団で待っててね」
1人でさみしかったね、ごめんね、そう言いながら菜々子と二人で隣の部屋へ行く。
そしてまた襖は閉じられた。
(し、心臓が止まるかと思った……)
大丈夫だよな。俺がいるって気づかれてないよな? 心の中で一人慌てふためいていると、今の出来事で萎えかけた一物をりせがまた揉んだりしごいたりし始めた。こんな状況なのに、いやだからなのか、
「花村先輩、また大きくなってる」
りせが耳元で囁いてくる。耳から感じるりせの吐息にぞくっとする。陽介は思わず目を閉じて身震いした。
「先輩、声出しちゃダメだよ?」りせは先程閉じられた襖に目を向けた後、そっと言った。
「菜々子ちゃんに、バレたくないでしょ?」
襖の向こうからひっそりとした二人の話声が聞こえてくる。身体が強張る。この状況がりせの嗜虐心に火をつけたようで、そんな陽介を見てりせはくすっと笑うと手のストロークを速めてきた。
「ふふ、約束通り、出して楽にさせてあげる」
何が何でも声を出せないとなると、先程までとは切迫感が違ってくる。身動きだって下手に音が出たらと思うと、迂闊に動けない。そんな自分に容赦なく快楽を与えてくるりせ。
「……ん、ふっ……!」
リボンを噛みしめている口元から涎が流れ落ちた。必死で耐えているうちに目元には涙が滲んでくる。
「ほら、千枝先輩たちも見てる。先輩の感じてるところ見てるよ?」
薄暗がりの向こうからこっちを見つめる目がある。ぎらぎら刺すような視線が痛い。こんな格好でイカされるのを見られるのか……視姦ってこういうのをいうのか……?
「見られながらイッちゃいなさい……!」
「んんんんっ……!!」
陽介は体をわななかせる。一瞬の後、亀頭の先から白濁液が飛び出した。
場に静寂が訪れる。
「すげー……、後半しゃべる余裕もなかったわ。花村相手にというのが、なんというか複雑な気分だけど」
「僕、射精というのを初めて見たんですけど……あんなに飛ぶとは……」
「うん確かにすごかった」
「……これ、どのくらいの飛距離があるんでしょうか……?」
二人の会話を、その場にへたり込んだ陽介はぼんやりと聞いていた。
「花村先輩、お疲れ様」
りせが陽介の口元に手を伸ばしてリボンを取る。噛みしめたままだったことに今気が付いた。りせがにっこりと笑う。
「今度は声も聞かせてね?」
頬にキスをすると、足取りも軽やかに皆の方へと向かっていった。
「りせちゃんすごかったねー」
「えへへ、頑張っちゃいました」
普通に会話に参加してる。
「私もきちんと見たかった……」
いつの間にか雪子が戻ってきていた。ほとんど見れなかったらしくかなり不満げである。りせが何かを思案している直斗に顔を向けると、
「直斗、どうしたの?」
「……やっぱり気になる」
直斗は顔を上げると、メジャーを持ってきているので取ってきます、言うなりそそくさと席を立つ。
ここに明らかにこの場にいるのがおかしい異端児がまだいるというのに、こうも無視できるこいつらって一体……
「はあ、着替えて戻ろ」
陽介はのろのろと立ち上がった。
女装ネタ書けたからもーいいです。